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夢へのバトン#6「一生涯材料屋」

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「夢へのバトン」シリーズ
技術者から、未来のメイカーへのメッセージをお届けするシリーズです。技術者の日常や情熱、思いを味わってください。

2020.05.06.
佃 市三(つくだ いちぞう)(元アルミニウムメーカー 研究員)

就職当時は、木や鉄の製品をアルミ化することが主な開発課題でした。野球バットやテニスラケットのアルミ化では、強度を上げると反発力が高まるため軽くて強い材料が適しており、メーカーは競って強度を上げていきました。しかし、使用中に割れという問題が発生しました。安全面も考慮した材料の製造方法を編み出すことに、苦労しました。ものづくり技術の重要性と技術力について考えるようになったと思います。

一生涯材料屋

まずは、自己紹介

みなさま、初めまして。材料屋の佃 市三(つくだ いちぞう)と申します。

材料屋の世界に入ったのは、昭和44年の大学の金属専攻になります。手相から金属関連の技術者を目指すのが良いということでした。卒業後もアルミ材料メーカーに就職しました。退職後も、耐熱材料関連の開発や趣味としての木工芸などに励んでおり、材料と個人や社会とのつながりをお伝えできればとおもいます。

就職当時は、木や鉄の製品をアルミ化することが主な開発課題でした。木からアルミへの転換として、スポーツ用品があります。野球バットやテニスラケットのアルミ化では、強度を上げると反発力が高まるため軽くて強い材料が適しており、メーカーは競って強度を上げていきました。しかし、使用中に割れという問題が発生し、機能と安全面、すなわち強度と延性の相反する現象に突き当たり、安全面も考慮した材料の製造方法を見直しました。大学時代は金属組織学を学びましたが、強度や延性を向上させるための金属組織論を応用した金属組織制御技術に苦労しました。ものづくり技術の重要性と技術力について考えるようになったと思います。

また、自動車や鉄道車両部品の鉄からアルミへの転換で軽量化による省エネについて取り組みました。アルミは鉄に比べて剛性が低いため、断面係数を大きくする工夫が必要であり、そのために複雑な形状になります。この場合も強度と加工性の相反する現象に直面しました。この分野の製品は寿命が長く使用量が多いため、資源の調達から廃棄までのライフサイクルコスト(LCC)、資源再利用の観点からリサイクル性など、今話題のSDGs(Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)の観点からの開発が必要です。

この分野の製品は、部位により材料の必要特性が異なることから、多くの種類のアルミ合金が使用されておりましたが、リサイクル性を高めるため単一合金で組み立てることができる新しいアルミ合金を開発しました。現在ではアルミのリサイクル率は、アルミ缶で97.9%(2019年アルミ缶協会)、自動車で79.0%(2002年日本アルミニウム協会)、鉄道車両で90.7%(日本アルミニウム協会)となり、資源の海外依存国として、我が国では必要な技術です。

最近、インフラの維持管理が社会的課題となっております。道路だけでも維持管理・更新に今後30年間に71.6~76.1兆円必要とされております(国土交通省)。主な対象は、鉄やコンクリートからなる道路や橋で、これらの寿命がもし1年でも伸ばすことが出来れば多くの維持管理予算が削減できます。そこで、鋼橋の腐食劣化損傷の金属溶射による補修技術で国家プロジェクトに採択され研究開発に産学で取り組みました。道路管理企業と共同で腐食劣化した橋梁の補修実証試験を行いました。この分野でのインフラ材料の研究開発に関し、インフラの長寿命化に今後継続して取り組まれることが望まれます。

木工芸の木彫りの面白さ

最後になりますが、退職後の余暇を利用して、木工芸の木彫りを楽しんでおります。
下の写真がその一例です。主な材料はけやきです。けやきは木目が美しく、乾燥すれば硬くて高精度な加工ができる高級材で、神社仏閣などの建築材として用いられております。

木製の文鎮

けやきという木材で作った、文鎮です。けやきは木の中でも重いほうですが、文鎮としては少し軽すぎます。

この文鎮の比重は4.8です。けやきの比重は約0.7ですから約7倍に重くすることが出来ました。

種を明かすと中に比重の大きい金属を入れました。

ペーパーナイフ

けやきの硬さを利用してペーパーナイフを作りました。

使いやすさと造形美から中央部にくびれを入れたいと思い、この部分にハイス鋼を心金として入れました。いわゆる複合強化によって、木の質感と機能性を高めました。封筒の開封作業が安全で優雅に行えます。

スマホケース

質感といえば手触り感のよい木製のスマホケースを作りました。

スマホを木のソリを利用して挿んでおります。木のソリは、乾燥によって木表(木の表面側)が木裏(木の中心側)よりも縮みやすいため生じます。木表を表面側に切り出しているため、使っているうちにスマホがケースから抜けることはありません。

手に持った質感がお届けできないのが残念です。

 

 佃 市三(つくだ いちぞう)
金属工学科を卒業後、アルミニウムメーカーにて研究員として勤務
退職後、母校の産官学連携センターに勤務し、技術のシーズと、企業のニーズのマッチングを行う。現在、母校の研究室で研究業務をお手伝い中。

#夢へのバトン

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