技術者から、未来のメイカーへのメッセージをお届けするシリーズです。技術者の日常や情熱、思いを味わってください。
2020.05.06.
辻川 正人 (つじかわ まさと)
(元 大学教授・金属工学研究者)
やってみる、調べてみる、考えてみてまたやってみる。
これで少しずつ、時には目覚しく知識を積み上げることができる人が科学の人です。その前に立ちはだかる今ここにある危機が深刻な環境問題です。対処していかなくてなりません。これからの世界は科学の人にしか託せません。
科学の人に託します
自己紹介。こどものころの私
乗り物好き、小さいころからおもちゃの分解(大半は元に戻りませんでした)で叱られてばかり。映画好き、SF好きで科学技術を信じて理系に進む。あたらし物好きであり古いものが大好き。クルマを手に入れて、好きなところに行けるようになって自由になった気分に浸ったのを覚えています。もちろん自動車も分解していました。
好きな場所へ行きたい気持ちが、発明につながりました
18世紀に発明された自動車
誰もが行きたいところへ行くという自由のための道具、デモクラシーのための道具が自動車。交通事故の激減に完全管理の自動運転が役立つのは確かですが、それが車の未来というのは少し悲しい。という人間です。
そのクルマですが、18世紀にフランス人が産んで、19世紀にガソリンエンジンでドイツ人が育てた、飛行機とならぶ発明です。1930年代の車も今も道路を走ることができます。1900年代のクルマでさえしっかりしたエンジン付きのものは普通に現代の交通をリードできます。しかし、人が運転するクルマは風前の灯です。
大航海時代を支えたコンパス
方位を知るための道具、コンパスを知っていますか?例えば、この写真は、ジンバル付きのコンパスです。ヨットには2基付いていて、予備にもう一つ載せておくのが普通でした。
コンパスと時計の発明が大航海時代を支えました。30年前まではどんな船にも正確な時計と正確なコンパスが必需品でした。しかし、GPSの普及によってコンパスは不用になりました。15世紀にマゼラン一行が世界一周を果たして、この世界に多くの場所があることを示して以来、このコンパスと時計を頼りにした大航海時代が地球を一つにし、飛行機や車もこれを使って地球をどんどん狭く感じさせてきました。これやあれやで世界はより住みやすい場所になり、人口はどんどん増えています。
次に発明される道具は何でしょう?
大航海時代を支え、地球を一つにしたコンパスも今では骨董品です。
最新技術もいつまでも主役ではありません。新しい技術に乗り越えられていく。これが科学の進歩です。科学とは誰もが理解しようと思えばできることの積み重ねです。科学の手順を踏むことで、誰もが過去の偉大な技術の上に新しい技術を積み上げることができます。
これからはゲームの世界、バーチャルリアリティがどんどん重要になっていきます。おいしいものを食べるというような体験、美しい景色に出会う五感全体で感動するというような事もバーチャルリアリティで可能になるでしょう。そして人間の機能はどんどん拡張されて、人間の脳さえも無機化されるという未来まで描かれています。
伝えたいこと
そんな時代を生きる新世代の皆さんに高齢者から言うべきことは一つです。科学でしか人類は生きていくことはできない。
放っておけば50億年もたてば巨大化した太陽によって水の惑星としての我々の地球は無くなってしまうそうです。地球の公転軌道を調整できるような巨大な科学がなければ、うまくいっても人類は宇宙をさまよう流浪の民となるか、地球上の他の生命と運命をともにするしかありません。百年単位で50億年を見据えた科学の進歩が必要ですね。
やってみる、調べてみる、考えてみてまたやってみる。これで少しずつ、時には目覚しく知識を積み上げることができる人が科学の人です。その前に立ちはだかる今ここにある危機が深刻な環境問題です。対処していかなくてなりません。これからの世界は科学の人にしか託せません。
以上
30年間大学で金属工学を専門に教育・研究。専門は材料の強さの追求と鋳造。南太平洋に思いを馳せる前期高齢者。
#夢へのバトン