Maker’s Clubみんなの工作博物館
工作まめ知識

【知識】アイススケートはなぜ滑るのか?

「技術の舞台裏」シリーズ
みなさんが何気なく目にしている現象や製品にもみんな「理由」があります。「なぜだろう?」という思いで、「当たり前」を見つめてみると、面白い発見があります。ここでは、技術者・研究者のみなさんから、そんな「技術の舞台裏」を教えていただきます。楽しんでくださいね。

アイススケートは、なぜ滑る?

2020.08.6.
元 重工業会社 研究員・毛利 勝一

スピードスケートは、なぜ速く滑ることができるのでしょうか?走った後の氷の傷のせいで、次の選手が転んだりしないのでしょうか?
その答えは、「水の状態図」にあるんです。

金属を知る学問。ものづくりの根っこを支える「冶金工学」

筆者は、1969年に工学部冶金学科へ入学した。治金ではない、冶金(やきん)である。「冶金」とは「原鉱石に含有している金属成分をとりだし、純粋な金属に分離・精製する技術。広義には、取り出した金属を材料として加工する技術をも含む。」である(広辞苑第3版より抜粋)。英語では、metallurgy という、要するに、メタル(metal)を扱う学問である。入学した当時は「鉄は国家なり」とも言われるほどに、金属を扱う学問、事業は大変重要であり、鉄鋼、造船などの重工業は、重要な技術を扱っていたのであった。

状態図

冶金学入門で、最初に重要なことは「状態図」を知ることである。すなわち、その温度でその金属は液体なのか、固体なのか、他の金属と混じってどういう状態なのかを知ることである。一般に、金属は常温常圧(25℃、1気圧)では固体であり、温度を上げていって高温になると、ある温度で融解し液体になる(融点)。そしてさらに高温になると金属蒸気となる(沸点)。

身近にある「水」でも原理は同じである。私たちが住む常圧(1気圧)では、低い温度では氷(固体)であり、温めると溶けて水(液体)になり(融点)、さらに高温になると沸騰して蒸気(気体)になる(沸点)。ところが、気圧が変化するとそれらの温度が変化する。山登りに行って、標高の高いところではおいしいご飯を炊けない、という。これは、標高の高い場所、つまり気圧が低い場所では低い温度で水が沸騰するためにご飯を美味しく炊けないのです。300mの高さを登ると、沸点は約1℃下がります。ですから、富士山の山頂では沸点が約88℃となってしまい、美味しいご飯を炊けなくなるのです。

水の状態図

では、水の状態図を見てみましょう。横軸が温度(℃)、縦軸は圧力(気圧)です。真ん中の線のあたりが常圧、つまり1気圧、私たちが住む世界です。氷(固体)は0℃以上では溶けて水(液体)となり、100℃で沸騰して蒸気(気体)になります。

では、富士山の山頂以上に高いところ(空気が希薄なところ)、あるいはその逆にものすごく圧力の高いところではどうなるでしょう?

0.006気圧、0.01℃に三重点があります。ほんの少し圧力、温度が変化するだけで水は固体、液体、気体に変幻します。高度で言いますと、約6万メートルです。まだ宇宙空間(一般には10万メートル以上)ではありませんが、ジャンボジェット機が飛ぶのは約1万メートルですから、その6倍の高さでの圧力です。ちなみに、その空間の温度は相当に低いですから、存在する水はすべて氷、ものすごく小さな細かい氷(固体)が希薄に散在している状態です。

逆に、高圧、高温での状態を見てみましょう。218気圧374℃を越えた領域に「超臨界流体」と書いてあります。「超臨界流体」といって、気体と液体の区別がつかない状態になるそうです。世界最深のマリアナ海溝が1万メートル(約100気圧)ですから、その2倍です。ものすごく高い圧力の世界です。

アイススケートはなぜ滑るのか?

さて、ここで問題です。

写真:
2016年12月10日東京新聞夕刊記事より。
優勝した日本の女子スプリントチーム

アイススケート(スピードスケート)は、なぜあのように速く滑ることができるのでしょうか?

氷がツルツルしているから?

いえ、それだけではありません。水の状態図をよく見ればヒントがあります。とがったアイススケートの「刃」に体重がかかるとどうなるでしょうか。

もう一度、水の状態図をみてみましょう。

図:水の状態図

そうです、体重が「刃」にかかり、「刃先」には相当に高い圧力がかかります。

スケートの「刃」直下は即座に水になり、スムーズにすべることができます。スケートが通過したら、すぐに圧力が元へ戻り、水が氷になりますのでスケートリンクにはなにも影響は残りません。

水の状態図からでもいろいろなことを学べます。

新たな説も。興味は尽きません

「アイススケートはなぜ滑るのか」。ここで紹介したのは状態図から説明できる「圧力融解説」です。最近になって、氷表面の分子レベルの観察等により、新たな知見も出ているようです。興味を持って調べることも大事です。

 

 毛利 勝一(元 重工業会社・研究員)
40年間重工業会社へ勤務、退職後は日本鋳造工学会関西支部の活動などを支援。
専門は、鋳造工学。
タイトルとURLをコピーしました