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夢へのバトン#10「金属・鋳造に魅せられて」

「夢へのバトン」シリーズ
技術者から、未来のメイカーへのメッセージをお届けするシリーズです。技術者の日常や情熱、思いを味わってください。

現役時代は技術系の公務員でした.企業からの依頼で製品トラブルの原因を調べて解決策を一緒に考えたり,新しい製品作りで困った場合などに技術的なアドバイスを行ったりしていました.技術についての町のお医者さんといった感じです.

今は鋳型を作る3Dプリンターを駆使して鋳物屋さんを支援する仕事をしています.このコラムでは金属を溶かして固める魅力を伝えられたらと思い,家で体験できる鋳物づくりを考案しましたのでぜひ最後までご覧ください.

現在は技術が進歩してコンピュータのCADで形状を作り直接鋳型を作る3Dプリンターで鋳型を作り鋳造ができます.鋳造も進化していますよ.

奈良時代の大仏さんは鋳造品です.ジェット機のエンジンの重要部材であるブレードも鋳造品です.古い技術とは,古くからある技術であるから古いだけなんだと誤解してはいけません.先進・先端技術です.皆さん,「チャレンジ!」しませんか.

2020.11.14.

柏井 茂雄(かしわい しげお)(元 技術系公務員)

金属・鋳造に魅せられて

自己紹介

現役時代は技術系の公務員でした.企業からの依頼で製品トラブルの原因を調べて解決策を一緒に考えたり,新しい製品作りで困った場合などに技術的なアドバイスを行ったりしていました.技術についての町のお医者さんといった感じです.

私は金属を溶かして型に流し込むことで「かたち」を作る鋳物技術を専門としています.鋳物屋は3K(きつい,汚い,危険)の代表的な仕事で,若い人はほとんど見向きもしなくなってきていますが,本当はやってみるとおもしろいし「愛着をもてる」仕事であると思っています.

今は鋳型を作る3Dプリンターを駆使して鋳物屋さんを支援する仕事をしています.このコラムでは金属を溶かして固める魅力を伝えられたらと思い,家で体験できる鋳物づくりを考案しましたのでぜひ最後までご覧ください.

子供のころは「ラヂオ少年」

プラモデルを作ると接着剤がはみ出し汚くなってしまい,ものづくりは下手くそでした.一方で,はんだごてを使った電子工作が「好き」で,ゲルマニウムラヂオを作って放送が聞こえた時の嬉しさはいまでも忘れられません.手巻きコイルにバリコン(バリアブルコンデンサー)をつないで空中に飛んでいる電波をキャッチして電気信号に変え,ゲルマニウムダイオードで「整流」するだけで音がでる.まさに工作の原点ではと思います.Maker’s Clubで作ってみてはいかがでしょうか.

大阪万博(1970年)でコンピュータが紹介されるとコンピュータ少年に変身し,将来は電子関係の技術者に憧れたのです.しかしなかなか思い通りにはいかないもので,気が付くと憧れた分野とはかけ離れた金属,鋳造の道に入っていました.

トマトはきらい

子供はお肉が好きで野菜が嫌い,私も同じで特にトマト嫌いでした.母がよく「おいしいから騙されたと思って食べてみなさい」とトマトを食べさせようとしていましたが,「トマトは夏の食べ物なのになんで冬に食べるのだ.おいしいはずがない」と心の中でつぶやいていました,実際硬かったり,鮮度が悪かったりでまずくて食べられなかったですね.

ある夏に帰省した田舎で親戚に勧められるままに畑に実っているトマトをもぎ取ってそのままかぶりつきました.今までのトマトとは全然違う.「そうかこれが本当のトマトか.トマトっておいしいんだ.知らなかっただけなんだ」.その時から「トマト大好き人間」に変身しました.いまだにそのトマトよりおいしいトマトは食べたことがないです.

好き・嫌いや自分に合う・合わないは最初から決まっているものではないと思いますので,やってみて素敵な出会いがあれば必ず好きになるとおもいます.試してみて「僕にはむいてないなあ」ということも多いのですが,それはそれで成果ですね.

学生時代に先生に連れられて鋳物工場に行きました.

コークス(石炭)を焚いて1500℃で鉄を溶かしていて,熱いしホコリもすごい,作業の環境が悪い.「鋳造なんかやりたくない」というのが正直な感想でした.よい出会いではなかったのですが,いつの間にか嫌なはずの分野に携わるようになり,その魅力に触れて今や愛着をもてるというのが現状です.

ものづくりといえば金属材料

ものづくりの代表といえば「自動車」です.自動車は3万点もの部品からできています.トヨタ博物館の「モノづくりQ&A」(次のリンク参照)から2つのクエスチョンを引用しながら,金属材料について見てみましょう.

https://www.tcmit.org/reading/kids/car/
Q2:「車はどんな材料や部品からできているの?」

車の重量の80%は金属でできているそうです.

金属は硬くて強いですがそれでいて曲げたり延ばしたりできる「しなやかさ」も持っているのです.そう変化自在なのです.熱にも強いし電気も通します.材料のスーパーマン見たいですね.

Q3:「かたい金属は,どうやって加工するの?」

「鋳造・鍛造・切削・プレス・溶接」の5つの方法が紹介されています.

スーパーマンのような材料も高温にすると水のような液体になり,型に流し込んで固めると自由な形状に加工できます.これが鋳造で金属加工の最も基本になる加工法です.溶かして固め,そのまま鋳物として使うのはもちろんですが,延ばしたり削ったりする元の金属素材としても使います.

金属の素顔

金属材料といえば鉄,アルミニウム(アルミ),銅が代表です.鉄は車のボディをはじめたくさんの製品で使われていますし,包丁やスプーンは鉄の一種のステンレスが使われています.アルミニウムは1円玉や鍋に使われています,10円玉は銅です.

色や重さで区別できますが,金属の中身って知りませんよね.金属は溶かして固まるときに規則正しい「結晶」になって固まります.中身は「金属の結晶」でできています.金属の組織を調べることを私は「金属の素顔」を見る,と言っています.素顔を知る,本当を見る,ことが大切ですね.

写真1 純銅鋳物の結晶模様

結晶と言えば雪の結晶が有名ですが,きれいですね.身の回りの金属も鏡のように磨くと結晶が見えてきます.

写真1は鋳造してできた純銅の結晶です.金属が固まる ときに自然とできる模様ですが,ちょっと芸術的で美しいと思いませんか.

写真2 ビスマスの立体的な結晶

結晶は3次元的な構造を持っています.写真2は金属ビスマスの結晶で3次元的構造が良くわかりますね.家庭でも簡単に作れますよ.ビスマスをカセットコンロで加熱して溶かし,固まる途中で固まった部分を引き上げると,素敵な形の結晶が姿を現します. アクセサリーなどに加工して販売されたりもしていますよ.

自然の芸術といえますが,鋳造の過程でこのような結晶が積み重なって金属材料ができると知ると不思議に思えますし,その魅力にひかれますね.

おうちで鋳物 ―洗濯のりで鋳物に挑戦―

今回はみなさんに鋳造,金属の凝固を知ってもらいたいと思い,家で体験できるよう鋳物づくりを考えました(詳しくは,後に公開する予定の「おうちで鋳物」にまとめています).

用意するものはたくさんありますが,できる限り100円ショップでそろえ,あとはとホームセンター,ネット通販でそろえられるように考えています.

それでは作業の状況を簡単に説明します.

(1)鋳型づくり

砂に合成洗濯糊を加えてよく混ぜます.模型を台に張り合わせ,砂がこびりつかないように模型の表面に離型剤のサラダオイルをたっぷりと塗ります.模型の周囲をプラスチックで囲い,その中に模型が軽く埋まる程度に砂を入れます.木の丸棒を用いて模型周辺からトントンと突き固めます.

(a) 少し砂を入れて,細い棒でトントンと固めます

(b) 砂を追加し太めの棒でしっかりと固めます

写真3 まずは鋳型(いがた)づくり

(2)錫の溶解,鋳造

金属は食器などにも使われている錫を使います.カセットコンロで簡単に溶解できます.錫は,融点(溶ける温度)が231.9℃と低いですから,カセットコンロで簡単に溶解できますが,とても高温ですから,十分に気を付けて,軍手をするようにしてください.今回の実験「おうちで鋳造」に使うものの写真が,写真4です.計量カップの中に入っている四角いブロックが,今回使う金属,「錫(すず)」です.

写真4 計量カップとカセットコンロで錫を溶かします

できた鋳型は強度がないために模型を外すと崩れてしまいます.乾燥させ強度が出ると模型を外して鋳型が完成します.ここでは時間短縮のため電子レンジで加熱して乾燥させることとしました(一番苦労したところです).
200W程度で5分を3回に分けて加熱です.
出来上がった鋳型が写真5です.鋳型に使う砂の種類が違っています.砂の種類は,左から粗い砂,細かい砂,精密鋳型用の石膏です.

写真5 出来上がった鋳型です

それから,溶けた錫をゆっくり注ぐように鋳型に入れます(写真6).

写真6 金属が解けたら「鋳込み」です.簡単!!

しばらく見ていると,模様が見えて錫の結晶が成長しながら固まっていきます.このように,液体から固体に状態が変わることを「凝固(ぎょうこ)」といいます.錫の結晶が成長し表面がでこぼこしてますね.熱いので絶対に素手では触らないで下さい.

30分ほど冷ましてから,軍手をして鋳型から金属を取り出しましょう.

写真7は,鋳型から取り出す直前の錫の様子です.

写真7 冷えて固まった錫.表面の凸凹に注目.

写真8は,鋳型から取り出した金属です.これで,完成です.

3つの金属は見た目が違います.これは,鋳型に用いた砂の粗さの違いによるものです.鋳型に使う砂の粗さで表面の仕上がりが異なります.写真7の一番左の,少し表面がざらついている金属は,粗い砂を使った鋳型で作ったものです.同様に,真ん中の左側より滑らかな表面の金属は,細かい砂を使った鋳型で作りました.一番右の,ツヤツヤと輝いている金属は,精密鋳型用の石膏を使った鋳型で作りました.鋳型の種類でずいぶん様子が違いますね.

写真8 鋳型から取り出した金属;鋳型の種類は,左から粗い砂,細かい砂,精密鋳型用の石膏

最後に

現在は技術が進歩してコンピュータのCADで形状を作り直接鋳型を作る3Dプリンターで鋳型を作り鋳造ができます(写真 9).鋳造も進化していますよ.

奈良時代の大仏さんは鋳造品です.ジェット機のエンジンの重要部材であるブレードも鋳造品です.古い技術とは,古くからある技術であるから古いだけなんだと誤解してはいけません.先進・先端技術です.皆さん,「チャレンジ!」しませんか.


写真9 最新鋭の3Dプリンター前にて,筆者(兵庫県立工業技術センターにて)

柏井 茂雄 (かしわい しげお) 元 技術系公務員

長年,公設研究所で勤務し,退職後は準公的機関の研究所に所属して鋳造業界を支援しています.

鋳物大好きです.日本鋳造工学会関西支部では,いろいろな行事のお手伝いもしていますが,実は,ミュージシャンでもあります.

写真で私が演奏しているのは,横にして演奏する不思議なギター「Dobro Guitar(ドブロ・ギター)」です.

#夢へのバトン

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