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夢へのバトン#5「鉄を溶かしてきて・・・ものづくりに欠かせないもの」

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「夢へのバトン」シリーズ
技術者から、未来のメイカーへのメッセージをお届けするシリーズです。技術者の日常や情熱、思いを味わってください。

2020.05.06.
橘堂 忠 (元 公設試験研究機関・研究官)

ものづくり(エンジニアリング)は、さまざまな科学知識をベースにして、いろんな知恵と工夫を施すことをいうのだと思います。科学知識だけではよりいいものはできないのです。知恵と工夫が必要なのです。
また、想像力、好奇心も大切です。これを養うのにはいろんな分野の本を読むことです。本を読むことで、いろんな世界、様々な人たちの考えや、過去のえらーい天才たちの経験、知恵に遭遇でき、想像力、好奇心を掻き立てる切っ掛けになります。
ものづくりのかなめは知識+知恵・工夫+想像力+好奇心です。

「鉄を溶かしてきて・・・ものづくりに欠かせないもの」

まずは自己紹介

まずは自己紹介、私は公設試と呼ばれる中小企業の技術課題について相談するところで昭和52年から約34年間勤務し、定年退職後は大阪府下の鋳物屋さんで技術開発を担当させてもらっています。

そうです、私の専門は鋳物・・・「いもの」と読みます。「いぶつ」ではありません・・・なのです。

実際の鉄の鋳物には鉄に、炭素やシリコンやマンガン、クロムなどたくさん種類の元素を加えて鉄だけの時よりも低い温度でとけるものに工夫しています。これを専門用語でこむつかしく鋳鉄・・・「ちゅうてつ」と読みます、「いてつ」ではありません・・・と呼んでいます。

大仏も鋳物です。金属のものづくりの流れが良くわかるので、興味があれば検索してみてください。

大仏のつくりかた 鋳造技術
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鉄は高温で液体になる

ところで皆さん鉄が溶けているところ見たことあります? そうです、鉄も溶けます。凍っている氷が0℃で溶けて水になることは皆さんご存じですよね。鋳鉄も加熱して温度を上げていきますと、約1150℃あたりで溶けて水のような液体になります。ただし、実際には1400℃を超えた熱い液体にして使用しますので、現場の人たちは「湯(ゆ)」と呼んでいます。ちなみにいろんな元素を加えていない鉄だけでは1500℃を超えないと溶けません。脱線しましたが、溶けた鋳鉄の表面は溶け始め赤黒い色をしていますが、温度が高くなると黄色に、1500℃を超えると白色へと変化し、それはそれはきれいにぴかぴかと光り、輝きます。みたことないでしょう!

この溶けた鋳鉄の湯を鋳型という内部に自分が形にしたい形状の空洞をにものに注ぎ入れます。鋳型は通常砂でできています。鋳型に注ぎ込まれた鋳鉄は冷えて固まります。この溶けた鋳鉄などの液体の金属を砂型などの鋳型に鋳込んで自分の欲しい形状にすることを鋳造といい、「ものづくり」の代表のひとつです。

ものづくりについての私の思い

ここで話はがらりと変わって、ものづくりについて私の思いをお話ししたいと思います。ものづくり、かっこよく言えばエンジニアリングとも言いますが、さまざまな科学知識をベースにして、いろんな知恵と工夫を施すことをものづくりというのだと思います。

例えば、持っていない人がいないくらい普及したスマホについて見ますと、スマホは電気回路でてきていますので、オームの法則などの電気や固体物理に関する科学知識を基礎としています。これに、小さなスマホによりいろんなパーツを組み込むにはどうしたらいいか? より画面を大きくするにはどうしたらいいか? 電池を長持ちさせるにはどうしたにいいのか? など皆さんの「こんなんやったらいいのにな」というご要望が多々ありますよね。冷蔵庫や洗濯機のような電気製品、自動車でもより性能のいいもの、使いやすいものを求めるのが普通です。

この、よりいいもの、より性能のいいものを求めて、エンジニアリングしている人たちが毎日残業までして工夫を施し、知恵を絞って七転八倒しているのです。そうなのです。科学知識だけではよりいいものはできないのです。知恵と工夫が必要なのです。多くのものづくりで生み出された工業製品は知恵と工夫の塊ともいえます。また工業製品だけでなく、昔からある伝統工芸品たとえば西陣織もの、漆蒔絵(うるしまきえ)、和紙、といわれている分野ではもっともっと知恵・工夫がてんこ盛りされています。大昔の石器にも矢じりには刺さりやすいように、獲物の皮をはぐのに都合の良いように砥がれた刃がつけられたりして工夫しています。人間の創るものにはすべて知恵・工夫があると思います。

いいものが必ず売れる?

VHSとβマックスの戦い

ここでお話は更に展開して、いいもの、優れた特性を持つものが必ずしも売れるとは限らないという現実があります。DVD(ディー・ブイ・ディ)あるいはBD(ブルーレイディスク)しか知らない方々が増えているのでご存じない人が多いと思いますが、映像・音声を記録するのに昭和の時代にVHS(松下電器、現パナソニック)とβマックス(Sony)のビデオカセットテープ方式での規格がありました。性能的にはβマックスが優れていたとのことでしたが、現実にはVHSが勝ち組になりました。松下さんのショーバイ「商売」の仕方が上手だったからです。技術だけでなく、ビジネスの仕方の知恵・工夫もものづくりには必要かな?

開発した硬いセラミックス

比較になりませんが、私も硬いセラミックともいえる炭化物を丸くした新しい摩耗に強い材料を開発したのですが、なかなか売れません。値段が高い元素をたくさん使う材料ですので、いままでの材料よりも高くなってしまいます。値段が高いと性能が優れていてもお客さんは簡単に採用してくれません。コストという魔物が良き優れたものを亡き者にします。性能が優れていても売れないものは数限りがありません。

中でもアカデミックな分野の方々がこの魔物に泣いておられるようです。

売れるにはどう工夫を施したらいいか、いい知恵が思い浮かばないのがこの問題のようです。

ものづくりに必要なもの。想像力と好奇心

先にものづくりには知恵と工夫が必要と述べてきましたが、更に必要なものについて思い浮かべてみます。知識に加えて知恵と工夫に加えて想像力・イマジネーションと好奇心が大事ではないでしょうか? 現在ものづくりだけでなく、いろんな分野で問題が生じたときに「想定外のことだった」との発言をよく耳にします。いろんな状態・状況を想像・想定して先に試しておくこと、実験しておくことが欠けていたからです。工業製品のものづくりにおいても様々な使用状況を想像して、数多く試しておくことで、工夫・知恵がたくさん重なって改良が進み、問題・異常事態が発生した場合でも慌てることがないのです。

変わってまたスマホを題材としますが、電話とパソコンを一体化させ、小型化して持ち歩けないか、そんなものが創れないかという想像したことがものづくりに欠かせないことだと思います。スマホがネットとつながることで、社会の在り方まで一変させたことは想像することの素晴らしさを表していると思います。

想像力の源は、好奇心

最後に私は想像することの源は好奇心だと思います。漫然と、チコちゃんではありませんが、ぼーっといろんな現実・事象を見ているだけでは想像はできません。なぜ、ナンデそうなっているのか、なぜ、どうしてできないのかという好奇心が想像する機会を生み出すと思います。この好奇心がさまざまな知識をも生み出したと思います。

ものづくりのかなめは知識+知恵・工夫+想像力+好奇心です。

知識は学校で一部教えてもらえると思います。図画、工作で知恵・工夫を生み出す過程を経験することがあるかもしれません。頭だけで考えるのではなく、手を使うことが大事で、鉛筆ひとつを削る時でもナイフをどう当てればよく削れるか、どのタイミングで力をいれるかなど工夫が必要です。

想像力、好奇心を手に入れることは容易ではないのですが、これらを養うのにはいろんな分野の本を読むことです。本を読むことで、いろんな世界、様々な人たちの考えや、過去のえらーい天才たちの経験、知恵に遭遇でき、想像力、好奇心を掻き立てる切っ掛けになります。これで終わります。

定年後10年を迎える昭和団塊世代・前期高齢者の思いの雑文を最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 橘堂 忠(きつどう ただし)氏。
30有余年、公設試験研究機関に勤務。主に中小企業からの技術相談を解決してきた。退官後は、民間の会社に勤務し、鋳造の製造現場を支援、また新しい鋳物を開発中。若い世代に引き継いでほしい。趣味はゴルフ、オーディオ。昔はカメラも。お金のかかる趣味ばかり。昨今のコロナ騒ぎで運動不足です。

#夢へのバトン

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