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船の話(1) 「もし船がなかったら」

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●この記事の目的●
模型工作には、ものづくりの基本のすべてがつまっています。飛行機や車や船の模型には、実際に動いたり飛んだりしている実物と同じ原理(約束や仕組み)が詰まっているのです。その実物の原理を知ることで、模型工作がもっと楽しく素晴らしいものになります。原理原則を知っている人の作る模型工作は、創造的な実物のものづくりへつながります。

この連載記事は全8回です。以下の内容を予定しています。

  • 第1回 船の話(1) もし船がなかったら(この記事)
  • 第2回 船の話(2) いろいろな構造を持つ船
  • 第3回 船の話(3) 船はなぜ浮くか?
  • 第4回 船の話(4) 船を走らせる道具
  • 第5回 船の話(5) ヨットはなぜ走るのか
  • 第6回 船の話(6) 船が転覆しないためには
  • 第7回 船の話(7) 船と飛行機の意外な関係
  • 第8回 船の話(8)【最終回】船を強くする工夫
私達が暮らしている日本は、資源や食料の多くを外国からの輸入に頼っている、海に囲まれた島国です。車の燃料であるガソリンを作る時に必要な原油は99.7%を、パンの材料の小麦は88.1%を輸入に頼っています。それらを海の向こうから運んでくるのは、船であり、船は日本に暮らす私達にとってまさしく命綱といえます。この「船の話」では、そのような船の秘密を探っていきましょう。

船の話(1) もし船がなかったら

船舶工学の研究者(2021.01)

海に囲まれた日本

皆さんは、もし船がなかったらどうなるか?ということを考えたことはあるでしょうか。

私たちが住む日本は、山地と丘陵地で国土の7割を占める狭い日本列島で、しかも地下資源に恵まれないところに、1億2000万人を超える人間が生活しています(令和2年現在)。このため私たちが生活していくうえで必要な物資は、外国からの輸入に頼っていることは皆さんもご存知と思います。

地図帳を出版している帝国書院のホームページをみると日本が外国からどの程度、食料や資源を輸入しているかの割合を見ることができます。

それによると、2018年の場合、原油と食料についてみてみると、表1のようになっていて、多くを輸入に頼っていることがわかります。

表1 原油・食品の輸入率のまとめ

項目 何を作る時の材料か 輸入に頼っている割合(その量)
原油 ガソリンなど 99.7% (17,590万キロリットル)
小麦 パンなど 88.1% (565万トン)
大豆 豆腐、しょうゆなど 93.9% (324万トン)
トウモロコシ 家畜のえさ用 100% (1580万トン)
牛肉 牛丼、ステーキなど 65.1% (60.7万トン)
マグロ・カツオ お寿司など 53.3% (18.9万トン)
エビ お寿司、エビフライなど 91.5% (15.8万トン)

(帝国書院のホームページから抜粋(*1))

大豆は豆腐やしょうゆの原料に、小麦はパンやうどんの原料ですね。とすると皆さんが大好きなきつねうどんやエビの天ぷらうどんの大半は輸入に頼っていることになります。

平成27年の農林水産省のホームページには、「知ってる?日本の食糧事情 日本の食糧自給率:食料自給力と食糧安全保障」というのがあって、下の絵が紹介されています(*2)。

私たちの食事がいかに外国からの輸入品に頼っているかがよくわかる一例です。

エネルギーと船

また、原油を精製することで灯油、ガソリン、ナフサ(プラスティックなど石油化学製品の原料です)、軽油、重油が得られます。自動車の燃料はガソリン、バスなど大型自動車の燃料は軽油、ジェット機の燃料は灯油の一種です。 電気を考えてみましょう。東日本大震災の後、原子力発電の依存度は急激に小さくなったため、電力供給の約8割が火力発電に頼っています。火力発電というのは、お湯を沸かして得られる水蒸気の圧力で発電機を回して電力を得ています。この時の燃料が石油やLNG(液化天然ガス)、それに石炭です。これらもほとんどが輸入に頼っています。

輸入に頼る日本の命綱である輸送手段、船

ところでこれらの膨大な資源や食糧は何で運ばれるのでしょうか?

もちろん船ですね。ということは、もし船がなかったらこれらは日本に運ばれなくなってしまいます。

もし灯油やガソリンがなかったら?自動車は走れず、農作業をする機械も動きません。漁船も動かないということは十分な食料の確保が難しくなりますね。

もし電気が使えなくなったら?携帯電話、テレビ、冷凍冷蔵庫などは使えなくなります。冷凍食品もなくなるでしょう。小麦や大豆も十分には手に入りません。これらから作られる食品も満足に食べられなくなります。

これらがない生活は考えられるでしょうか。

船は日本人にとってまさしく命綱であることが理解できると思います。しかしながら自動車や飛行機、電車と違って、港の近くに住んでいない限り船を普段、目にすることはないと思います。このため船がほかの乗り物に比べてなじみがないのも無理はないかもしれません。

船で物を運ぶ時を考えてみよう

ところで先に述べたように船で運ぶものは、原油などの液体貨物、小麦などの粒子状の貨物や石炭などの石ころのような貨物など、いろいろな種類があります。箱に入れた液体などは揺れるとバシャバシャ揺れますが、揺れが止まると元通りに戻ります。

一方、小麦や石炭のようなものはどうでしょう。揺れて荷物が偏った形になると、揺れが止まっても荷物が偏った形から完全に元の形に戻りそうにもなさそうです。

このように荷物の種類によって、船の形も変わってきます。

また、船は一度に大量の荷物を運ぶことができます。これは船が水に浮く力を利用しているためです。船が浮く力はどこから来るのでしょうか。さらに、船は海をどのようにして走るのでしょうか。

車や電車なら回転するタイヤや車輪を見ると、これで走っているのだなというのがわかります。飛行機はどうでしょうか。プロペラ機ならプロペラが回ることによって飛んでいそうだ、あるいはジェット機なら翼の下にある筒のようなものが力を出して飛んでいそうだと、なんとなくわかりますね。

では船はどうでしょうか。ヨットや帆船なら帆があるので、これが風を受けて走りそうだというのはわかりますが、例えば、原油や、写真に示すような石油精製品を運ぶ大型タンカーはどうでしょうか?なぜこれが走るのでしょうか?

これから、船にまつわるこれらの疑問について、お話ししていきたいと思います。

石油精製品運搬船「ラゴベン パリア号」(ベネズエラ)

石油精製品運搬船「ラゴベン パリア号」(ベネズエラ)(「日立造船百年史」*3)

参考資料

(1)帝国書院サイト

株式会社帝国書院
地図と歩んで100年。小・中・高等学校の地図帳や社会科の教科書を中心とする出版社。統計資料や写真等,授業に役立つコンテンツを多数掲載しています。

(2)平成27年の農林水産省「知ってる?日本の食糧事情 日本の食糧自給率:食料自給力と食糧安全保障」https://www.maff.go.jp/kanto/kihon/kikaku/kihonkeikaku/pdf/zen27.pdf

(3)船の写真の出典:「日立造船百年史」(日立造船株式会社)1985年。

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