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夢へのバトン#7「科学者になりたい!」

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「夢へのバトン」シリーズ
技術者から、未来のメイカーへのメッセージをお届けするシリーズです。技術者の日常や情熱、思いを味わってください。

2020.08.22.
浅野 良二 (元 重工業メーカー・設計技術者)

「技術(技術者)」は科学が明らかにしてくれた知識を使って世の中が必要とする、便利になる、あるいは世の中のためになる製品や施設を作り出します。
人間も相手にする技術は制約の多い仕事ですが、新しくて形のあるものを生み出す面白みがあります。新しい材料が必要となれば、その材料を開発することもあります。今までにない製品ですから、実証試験をしたり、試作をしたりします。実証試験の時は「大丈夫かな」とドキドキします。
皆さんはいろいろな進路が選べます。科学者、技術者、あるいはそれぞれの分野での研究者を目指していただきたいと思います。

科学に憧れたこども時代

皆さん、こんにちは。Maker’s Club に「子供の科学」が紹介されていて大変懐かしく思いました。「科学者」にあこがれて、「子供の科学」の記事を愛読していたことを思い出したからです。もう半世紀も昔のことです。

科学者にあこがれていた私が実際についた職業は技術者、詳しくは設計技術者でした。皆さんの中には、「技術者よりも科学者のほうがおもしろいのでは?」と言われる方がおられると思いますが、「技術者もまんざらでもないよ」ということを私の経験からご説明したいと思います。

科学と技術の違い

まずは「科学」と「技術」の違いからです。私の理解ですが、「科学(科学者)」は物理、化学、生物、天文などの自然を相手に研究して、自然界で新しい発見をしたり、自然界の法則を解き明かしたりします。一方、「技術(技術者)」は科学が明らかにしてくれた知識を使って世の中が必要とする、便利になる、あるいは世の中のためになる製品や施設を作り出します

中学時代の思いと異なり、私はメーカーで設計技術者として、お客様の要望に基づいて、安心して使える製品を生み出す仕事をしてきました。製品の概念を構想し、物理や化学の知識を使って製品で使用する材料を選択し、製品の強度を確かめ、工場で作れるように設計図に仕上げる仕事です。工場ではその設計図に従って製作して製品をお客様に届けます。

自然を相手にする科学に比べて、人間も相手にする技術は制約の多い仕事ですが、新しくて形のあるものを生み出す面白みがあります。今までにない製品ですから、性能が設計した通りのものであるかを確かめるために、製品と同規模の模型を使った実証試験をしたり、問題なく製作できることを確かめるための試作をしたりします。実証試験の時は「大丈夫かな」とドキドキします。また、計画した性能を得るために新しい材料が必要となれば、その材料を開発することもあります。

創造性と革新性、そして、実用性も考える「技術」の仕事

創造性、革新性が必要な仕事ですが、同時に先輩の知恵に注意することも必要です。先輩たちが「なぜそうしたのか」を理解して、必要ならその考えを設計に取り入れることが大切です。自分の考えだけでは、理屈は合っていても、技術が目指している実用性から逸脱したものを設計してしまうことがあります。

私の失敗例をお話しします。重量物を吊る吊具を設計した時のことです。クレーン容量に制約があったので、極力軽い吊具が必要でした。このため、大きな強度の得られる高張力鋼の薄い板を使って設計しました。クレーンの容量が小さいという問題を解決した自信作でしたが、設計を見た上司から「これではたわみを感じる恐れがあり安心して使えない」と大幅な設計変更を指示されました。このために不要な時間とお金を費やしました。後でいろいろな吊具の設計を調べましたが、どの設計も、剛性(変形させようとする力に対する抵抗)が大きくなるよう考えられていました。たわみを感じないように設計されていたのです。「たわみを感じるような吊具は安心して使えない」という先輩たちの経験を理解していれば防げた失敗でした。

科学者も、新発見に必要な「技術」を研究している

「将来は科学者になって研究をしたい」と考えておられる方もたくさんおられると思いますが、研究者には科学を研究しておられる方も、また技術を研究されている方もおられます。現在のビッグサイエンスでは新しい発見に技術の支援が不可欠です。また、現在国連が提唱している「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs(エス・ディー・ジーズ))」の実現にも技術の支援と研究が必要です。

皆さんはいろいろな進路が選べます。私の様に科学者にあこがれるだけではなく、科学者、技術者、あるいはそれぞれの分野での研究者を目指していただきたいと思います。

浅野 良二 氏。
元 重工業メーカーの設計技術者。

40年間、重工業会社で設計技術者として勤務。現在、若手支援の活動に参加。

専攻は原子核工学。

#夢へのバトン

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