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すべてはひとりの子どもの創りたいから始まりました

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Maker’s Club 中谷敬子

ひとりのこどもの夢への伴走が始まりでした。

このプロジェクトの発端は、工作がとても好きで好きで仕方がないこども(当時中学2年)の、「ホバークラフト」を作りたいという夢に伴走したことでした。

手近なインターネットワーク上の子どものための工作応援サイトを参考にして、「ホバークラフトと呼ばれているもの」を作り始めました。

ホバークラフトの物理的な原理は、本体に取り付けた送風ファンにより、本体内部と外部の圧力差により生じる「エアークッション」で僅かに浮上するものです。しかし、彼が作ったのは、ファンの風圧による空気の噴射で浮上しようとするものでした。ホバークラフトの原理原則を無視した工作で、結果、浮上は叶いませんでした。

私達が子どもだった頃は、学研の科学、子供の科学をはじめとする、小学生向けの本格的な科学・技術雑誌がありました。今、理工系の研究者・技術者になっている多くの大人たちがそれらの雑誌に夢中になり、子供時代を雑誌とともに過ごした思い出を持っています。しかし、親となり、我が子に同じ体験をと思う時、時代の流れと科学技術の進歩と時代の流れの中で、そのような雑誌は形を変えて行っていました。
私は、こどもの興味と能力に合う本格的な工作記事を探し続け、50年前の第一線で活躍していた研究者と技術者のプロフェッショナル集団が、当時の小中学生のこどもたちのために、執筆した科学・技術雑誌「学研の学習と科学」「子供の科学」「模型とラジオ」を当たりました。これらの技術雑誌では、紙工作・木工作、ホバークラフトをはじめ、模型飛行機、電気工作など、身近な材料を使って、こどもたちがそれぞれの興味関心に応じて、基礎から応用まで幅広く挑戦できる体験の機会を提供していました。
これらは、まるで目の前にいるこどもたちに語り掛けるような文体と分かりやすい手書きの図で、そばで見守っているかのような優しさにあふれています。

それらの雑誌では、関連するかなり高いレベルの学術的解説をこどもたちに分かりやすい形で提供されていることに驚かされます。当時のこどもたちは、第一線のプロフェッショナルから手とり足とり学問的背景を体験を通じて学んでいたのです。

そして、ついに、「夢の図書館」(東京都青梅市)蔵書の「模型とラジオ」(1979年6月号(科学教材社)に掲載されていた「ホバークラフトを作ってみよう(増永清一)」に行きつきます。

「模型とラジオ」1979年6月号(科学教材社)

「ホバークラフトを作ってみよう 増永清一」;「夢の図書館」所蔵

彼は、夢の図書館の館長のアドバイスのもと、その40年以上前の子ども向け技術雑誌の工作記事を参考にしながら、夢の実現のために工作体験を重ねていきました。

体験から学ぶということ

技術工作は、物理の神様をはじめとする理論にいつも気を配っておかなければうまく作ることはできません。

彼は、なかなか浮上しないホバークラフトの軽量化を狙って、ファンを覆っていた外枠を削り取ってしまいました。これは、物理の神様に喧嘩を売ることでした。ファンの周りに覆いがあったから、空気圧に差が生じ、結果として浮上するからです。彼は、ホバークラフト理論の大元である、ダクテッドファンの理論を理解していなかったのです。

このように、彼は、工作体験の中で、たくさんの失敗を重ねて、少しずつ少しずつ学んでいきました。

ホバークラフトを夢見た子どものその後

さいごに、このホバークラフトを作りたかった子どもが、物理の神様の存在を理解し、本当のホバークラフトを初めて浮上させた日に夢の図書館への手紙を共有したいと思います。

2019.4.22
 ホバークラフト1号機ができました。    
ファンから空気が漏れずに分厚くすることを目的として、作りました。
ファンを支える部分は1.5㎝の直角二等辺三角形と2.5㎝の直角二等辺三角形でできています。2つを重ねて、支えとしました。その結果、空気を漏らさずに浮き上がってくれました。
 次は、スカートが空気を漏らさずにエアークッションを作れるようにしたいと思います。

この子どもは特別な子どもではありません。あなたのすぐそばにいる子どもと同じです。物理の神様の存在も知らず、間違ったやり方で、それでも自分の夢をかなえようと、悪戦苦闘していた子どもです。

こどもたちは、いつでも、その夢を実現するための好奇心でいっぱいです。先が見えない不確実な未来社会にいずれ巣立っていく彼らのために私たち大人ができることは、正しいコンパスと地図を用意し、その使い方を伝え、技術の海への冒険に送り出してやる事だけです。こどもたちは、それらを存分に活用して、好奇心のままに自由に技術の海を航海し、大活躍することでしょう。

50年前の学術と技術のプロフェッショナル達が、治術雑誌の紙面や付録を通じて、こどもたちに伝えた知識と技術のバトンを受け取って、あなたの立場であなたができることの少しずつのことを、一緒にはじめてみませんか?

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